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2012年1月23日 (月)

福島の未来、チェルノブイリの逆説

福島第一原発の事故が報じられてからはや10ヶ月以上。
依然、放射性物質の脅威のニュースは連日後をたちません。
というより、低線量被曝問題も含めてむしろ本当の怖さはこれからやってくる、
というのが一般的な見方なのかもしれません。

そんな中僕が気になるのは、原発周辺の自然環境が、今後どのように変化していくのか、ということ。
今現在、事故処理に当たっている人たち以外、基本的に立ち入り禁止区域となっていますが、
おそらく今後数十年、場所によっては半永久的に人の立ち入りが拒絶される場所となってしまったわけです。

強力な放射能を浴び続けることによって、福島の土は、山は、川はどうなっていくのか。
鳥は、動物は、そこから逃げられない小さな生き物たちは、どうなっていくのか。
今このときにも彼らは何も知らずに、
上空から静かに降り注ぐ放射性物質によって確実に汚染されつつあります。

実際に事故原発周辺がどうなっていくのか、正確なところはたぶん誰にもわからない。
けれども、私たちはチェルノブイリという前例を持っているわけで、
そこでの25年間の自然の推移は、数は少ないもののいちおういくつかの報告はあるようで、参考にしてみたい。

というわけで今回、アメリカ系ウクライナ人女性ジャーナリストが著した
『チェルノブイリの森 - 事故後20年の自然誌』という、
主にチェルノブイリ周辺の自然環境の変異を綴っている書物をひもといてみることにしました。


01_2 

チェルノブイリの森 - 事故後20年の自然誌』(メアリー・マイシオ)


1986年、チェルノブイリ原子力発電所で爆発事故が発生し、世界中に放射能がばらまかれ、当時のソ連地図に汚染の大きな印がつけられた。それ以来、「チェルノブイリ」という言葉は放射能に汚染された不気味な荒野を彷彿とさせるようになった。
ところが事故の十年後の1996年に初めてチェルノブイリ地区を訪れると、驚いたことに、いちばん目につく色は緑色だった。通説や想像とは裏腹に、チェルノブイリの土地は独特の新しい生態系に生まれ変わっていたのだ。悲壮な予言(「ヨハネの黙示録」)などものともせず、ヨーロッパ最大の自然の聖域として息を吹き返し、野生の生物で満ちていた。動物は、思いもかけず魅力的な棲みかとなった森や草原や沼と同様に、放射性物質ですっかり汚染されているが、繁栄してもいるのだ

つまり大雑把に言えば、放射能汚染後の土地は、人間の手が介入できないことによる荒廃ではなく、
逆説的に豊かな自然の凶暴なまでの横溢ぶりを示している、という。

湖は、いついかなるときでも確実に命を奪うほど汚染されているわけではない。水中で暮らす植物や動物はぴんぴんして生きているし、人間のじゃまが入らないぶんだけ、事故が発生していなかった場合よりも数が多いかもしれない

福島はおそらく、今後数十年を経て、このチェルノブイリの森と同じような道をたどるのではないか。
いやむしろ、気候が温暖湿潤な分、自然の回復の度合いは早まるかもしれない。
「放射能に汚染されてはいるが、人が介入することのない豊かな森」。

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個別の例を見てみる。

事故から十年の間に、落葉落枝から腐植土までの分解層に棲みつく生物種の数が半分以下に減ってしまった。それは恐らく、森の汚染がきわめて高かったからだろう。ダニやヤスデなど森の土壌に棲む虫の生息数はゾーン(避難区域)外より少なかった。ところが十年目から二十年目の間に回復してきている。恐らく、放射線量が減少したからか、あるいは虫が抵抗力をつけたからだろう

放射能の影響は生命力を弱めるという説もあるが、それに抵抗するように、有性生殖も無性生殖も可能な水生のミミズが、チェルノブイリでは、ゾーン外のミミズよりも交尾する率が高くなった

日ごろのニュース等で報道されているのを目にするとおり、
放射性物質は、自然のより豊かな部分に蓄積されていく傾向がありますね。
都会では植え込みの下草や落ち葉、土壌などが、
コンクリートなどの人工物よりも線量が高いと一般的に言われてます。
逆に言えば、自然は放射性物質だろうがなんだろうが、それらすべてを受け止め、
外部へなるたけ漏出させないという側面を持っているようなのです。
したがって原発周辺の自然環境の腐植土の下で生きている
小さな生き物たちへの影響は絶大だと思って間違いはないでしょう。
「虫が抵抗力をつけた」のかどうかはさだかではないけれど、
そのような場所でも生きているということ、それそのものが感動的です。

もう少し大きく、森の生態系について書いてある部分を引用してみます。

チェルノブイリ事故後にネズミの個体数が爆発的に増加した。1987年と翌年には、ネズミの数は1haにつき2~30匹から、何と2,500匹にまで膨れ上がり、強制避難地域を覆いつくしてしまうほどの数で安定したように見えた。ネズミ問題は深刻になり、ゾーンの役人の中には毒殺しようと言う者まで出てくる。ところが生物学者は個体数はすぐ自然に安定すると予測し、その通りになった。
まず、ネズミの個体数が爆発的に増加すると捕食動物が集まってきた。キツネやイタチ、とりわけ猛禽類だ。それでもネズミは多すぎて、野原には十分な餌が足りなくなった。しかしネズミの行動範囲は狭く、遠くまで出かけることができない。それで、1988年の秋には大半が餓死する。すると今度は、これ幸いと大量の死骸にむらがる腐食動物の数が一時的に急増する。ところが、ネズミの死骸が野原から一掃されると、自然界の掃除屋も姿を消した。人間の介入がなくなると、ゾーンの自然がその均衡を取り戻せることを示した最初の例だ

人間の介入がなくなったということにより、一時的に自然界のバランスが崩れたものの、
ほんの数年間で自然の冷厳な掟によって安定していった、というわけですね。

もう少し大きな生物、例えば鳥についての記述。

ポレーシェはヨーロッパでクロライチョウが昔から棲んでいた営巣地の南限にある。営巣地はかつてはヨーロッパのあちこちにあったが、今ではおもにロシア北部とスカンジナビアに限られている。ところが人間が住まなくなったチェルノブイリの土地は、この鳥が集まる環境を生み出してきた

ベラルーシでは、ダイサギは時たま見かける迷子のほかはいなかった。ところが、今ではゾーンはダイサギの主要な営巣地になっている。あたりのどんな様子からでもうかがえるのは、放射能が、人間を追い払ったことで鳥に寄与しているということだ。セシウムやストロンチウムやプルトニウムが一羽一羽のサギにどんな影響を与えようとも、放射能はサギ全体にとって人間の活動ほど悪いものではないらしい

ウなどの水鳥は1988年から姿を見せ始めた。12年後には、何千羽にもなり、木に大きなコロニーを作り、糞が積もって木が枯れてしまうほどだった

ずんぐりした体つきでカアカアと鳴くゴイサギの繁殖が1999年に初めて確認される。青と白のシロガラは、ヨーロッパのほとんどどこでも珍しい鳥だが、巣作りを開始し、世界でも珍鳥に属するハシボソヨシキリもやって来た

絶滅危惧種のオジロワシも現れ、ゾーンで越冬したものまでいて、50羽もいる。この鳥はチェルノブイリ事故の前には一羽もいなかったのだ

ヨーロッパのたいていの地方では干拓されて姿を消したピートの湿地に、コミミズクが巣を作っている

チョウゲンボウがプリピャチのバルコニーでほったらかしになっている花壇に巣をかける

絶滅危惧種のワシミミズクのヒナが石棺のそばで見つかることがある

事故の前にはナベコウはゾーンには一羽もいなかった。強制避難が行われたあとに現れ、ウクライナ側での生息数は2000年におよそ40羽にまで増えた。

250から280種の鳥(そのうち40種は希少種、あるいは絶滅危惧種)が強制避難以来、ゾーンで見かけるようになったのだ

・・・以上を読んだだけでも、いかに自然の回復力がすさまじいか、ということがよく分かりますね。
ただし当然のことながら自然が豊かになることによって
放射能による汚染が軽減されるというわけではいささかもありません。

例えばこんな記述も。

汚染の激しい『赤い森』に巣をかけるシジュウカラの卵殻には、放射性ストロンチウムが4万Bq/gも含まれている

・・・つまり、kgに換算すると実に4千万ベクレルのストロンチウムがこの小さな鳥の卵に含まれていた、という事実。

また、放射能が鳥に与える影響についてこんな記事も。
鳥に現れた異常、チェルノブイリと動物」(ナショナル・ジオグラフィックより)


最後に、大型の獣について。

あのヘラジカが立っていたのはベラルーシ側だったが、国境の両側に広がる無人地帯は、野生の動物にとって魅力的な棲みかになっていたのだ。キノコ狩りを禁じる規則は、狩猟動物を狩ることも禁じているからだ

人間はモウコノウマを絶滅の瀬戸際に追いつめ、それから野生で生きる新しい未来を与えた。何という皮肉だろう。野生で馬たちが生きることのできる場所、恐ろしい人間から解放される数少ない場所のひとつが、放射能に汚染された土地なのだ

ちなみにこちらも『ナショジオ』の記事。
哺乳類への影響、チェルノブイリと動物


03
チェルノブイリ原発4号炉、いわゆる「石棺」。

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SF作家ブルース・スターリングは、戦争や汚染などの災難のせいで自然が帰り未開の状態に戻った土地を「意図せぬ自然公園」と名づけた。意図せぬ自然公園は、手つかずの自然ではなく、「報復する自然」 - 政治や科学技術で崩壊した地域に再び自分たちの存在を主張する自然 - である。
チェルノブイリ事故は、絶滅の瀬戸際に追いつめられていた種が今では野生で繁栄しているという驚くべき例をいくつも生み出している

もちろん、故郷に帰るということを願ってやまない地元の方々の思いは
最大限に尊重せねばならないのは言うまでもないですが、
強度に放射能に汚染されながらも、恐らく自然はごく早急にその本来の姿を、
決してその場に入ることのできないわれわれ人間に誇示する日がやってくるのかもしれません。

今回はちょっとおカタい読書感想文になってしまいました。
本当ならば事故後も避難区域(ゾーン)にとどまりながら生活している人びと
(「サマショール」と呼ばれる)についても語りたいのですが、紙数が尽きました。

ではでは、またまた

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コメント

興味深い内容でした。

「凶暴な自然」っていいですね。

人間が自然をどうこうできると思ってるその傲慢さに
あれこれ言いたくなるけど言わずにいるのですが、
なんか気持がすっきりしました。

自然界に起こっているマイナス要因は、すべて人間の仕業ってことっすかね~。
開発と放棄(棚田とかも)、伐採、絶滅、挙句の果てに放射能汚染。

自然の修復力はヒトの行いに関係なく働き、
時々は予測できない方向に舵を切られ、その都度あわててる人間は、
そもそもの原因をつくったのだから粛々と受け入れるしかないのではと
最近は、終末論者みたいなことを考えてます。

投稿: ほんたべ | 2012年1月30日 (月) 19:01

ほんたべさんこんばんは。

>最近は、終末論者みたいなことを考えてます

ウィルスや戦争、不治の病、また破滅的な大災害にしても、もしかしたら人間の総数を減らすための高次の存在の意思のようなものの顕れなんじゃないかしら、などという馬鹿げた考えがふと頭をよぎったりもするほどです(こんな不謹慎きわまりないこと絶対に口には出せませんが)。

根拠はないですが、東北、近いうちに間違いなく来る東海(富士山含む)ときて、その後に東京周辺が「正される」(ムー用語です)という気がしてなりません。根拠なき予感に過ぎないのは自分でも承知してますが。

今回この本を読んでいちばん思ったことは、放射能問題って農薬とかの問題にすごくよく似ているな、ということです。放射能にしても農薬にしても、ある種の生体にとっては絶対的な「悪」などではなく、むしろ子孫を増やすための千載一遇のチャンスにもなりうる、ということ。ちょっとここでは説明できませんが、そのうち記事にしてみようかな。

ではでは

投稿: Fu | 2012年1月30日 (月) 22:50

>ある種の生体にとっては絶対的な「悪」などではなく、むしろ子孫を増やすための千載一遇のチャンス

これで思い出したことがひとつ。

天敵の研究者・N先生は日本で初めて「リサージェンス」が農薬によっておきることを発見した方なのですが、この過程で「ホルモリゴシス」も研究したのだそうです。

ホルモリゴシスってホルミシス効果とか言われてるアレです。

希釈倍率を高くしてうすーく農薬を散布していると、害虫の増殖率が増し繁殖能力が高くなることがわかったそうです。

人間に当てはめるには乱暴だから、人に対するホルミシス効果ってのは眉唾であると著名が科学者が言ってるそうですが、虫には有用なのですね。

リサージェンスは害虫が農薬に対する耐性を獲得し、農薬で天敵が死んだ後に激烈な発生をすることを言います。

どちらにしても、天敵はすぐ死んじゃうけど特定の害虫が増えるってことで、上記の放射能の話に少し似てますね。

投稿: hontabe | 2012年1月31日 (火) 10:15

ほんたべさんこんばんは。

>ホルミシス効果

今回の低線量被曝問題についてたまに目にする「ちょっとの放射線は人体にむしろ有用に働く」とかって言説はこのことを言おうとしてるんですかねー。中には「私の友人はそれで病気を治した」とかってヘーキでおっしゃる人もいたり。
ほんの少しだったらアルコールは健康にいい、とか(これは僕の言説 ^^)

ただしもしそれが本当だとしても、人間(優勢種)の介入が放射能汚染を契機としてなくなることによる勢力拡大とは意味がちがいますよね。
その生物が放射能に対する耐性を獲得したわけではおそらくないですからね。

ちなみに数種類のミジンコやもっと小さなプランクトンなんかを入れた水槽に、少しずつ濃度を濃くした農薬を注入するにつれて最優勢なミジンコがどんどん移り変わり、もっと濃くするとミジンコはほとんどいなくなってワムシなどもともとミジンコのエサだったプランクトンがはびこり出す、なんていう研究もあって、おもしろいなーと思いましたです。

投稿: Fu | 2012年2月 1日 (水) 00:09

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